[GW企画22位]MCの瞳。アーシア・アルジェント
ハイスクールD×D - 2016年01月08日 (金)

「わ、私をどうするつもりですか」
『ふっひっひ。そうだなぁ』
アーシアは一人でいるところを謎の人物に襲われてしまっていた。
周囲には不思議な結界の様な空間が展開され、その影響だろうかアーシアも力を出すことが出来ない。
(はやくここから抜け出さないと……!)
「ッ……!」
(ち、力が……)
立ち上がることもままならない彼女に悠然と近付く男は、
右手で顎をつかんで視線をあげさせる。

『むふふ!いやぁ美しい。どうするかって?どうしたものかなぁ♪』
(こ、この眼……!)
男の瞳を見た途端、さらにアーシアは力が抜けてしまう。
吸い込まれるような眼力は、唯一正常に保たれていた意識すらも奪い取り思考を停止させてしまう。
「―――ッ!」
普通の人間に比べはるかに高い精神耐性を持つ彼女は、わずかな時間で思考停止から回復した。
必至に嫌悪感を表し、力を振り絞って睨み付ける。
『怒った顔も綺麗だねぇ』
『いやぁあんまり可愛いいからボクの下僕にしようかと思ったんだけどねぇ、どうやら気になっている人がいるようだし諦めることにするよぉ』
以外にもあっさりと開放すると言う。
その言葉にアーシアは安堵よりも先に、ある感情を抱くのだった。

「―――!」
激しい雷の様に胸を撃たれるアーシア。
何かをしようと思えば何でも、それこそ生殺与奪を握っている状態の男が自分の心を汲み取り開放する。
なんて懐の大きい男なんだろう―――
それが彼女の抱いた感情だった。
『それじゃあね。ふひひっ』
「あ……あぁ……」
宣言通り結界を解除し、男は去って行った。
この出来事はアーシアの心に強く刻みこまれるのだった。
そしてしばらくの時が経ち、アーシアは悪魔へと転生した。
仲間や救ってくれた一誠に恋心を抱きながらの生活は、今までにない幸せの時だった。
だが、それも長くは続かない。
愛情とは移り変わる物だからだ。

「なんで私の気持ちをわかってくれないんですかっ」
「いででで!」
一誠と結ばれたくともライバルが多く、アーシアの気持ちの大きさと一誠の気持ちの大きさがすれ違っていると感じる様になっていた。
嫉妬の感情が発展し、一誠の挙動ひとつひとつを目で追ううちに小さいことが気になりはじめた。
やがてそれは本来抱いていた愛情へも悪い影響を及ぼし、本当に一誠に尽くしてて良いのだろうかと思い始める。
自分の気持ちを理解して欲しい
何故理解してくれないんだろう
理解する気が無い?
それとも理解できないだけなのか―――
一度芽生えた負の感情は、彼女の中で次々と独自の成長を遂げ、大きな悩みになっていた。
(悪い人でも……たった一瞬で気持ちを理解してくれる人もいたのに……)
アーシアは過去の出来事を良く思い出すようになっていた。
謎の男に襲われたあの日の出来事は、鮮明に思い出すことが来出る。
自分を襲った相手すらちゃんと理解してくれるのに、一誠はそれすらできない。
あの日の出来事を思い出すうちにその気持ちは大きくなり、1ヶ月もする頃には心を大きく蝕んでいた。
膨れ上がった負の感情は、いつのまにか愛情よりも大きくなっていて、アーシアの迷いはさらに深い物となる。
「はぁ……」
(もう一度あの人に会ってみたいな……)
襲われたという事実があるにもかかわらず、こんな考えを抱く様にすらなってしまっていた。
そんなある日、街を歩いているとアーシアの眼に一人の人物が飛び込んできた。

「あ、あれは……まさか……!」
なんと道路の向こう側にいたのはあの日自分を襲った男だった。
突然の出来事に無我夢中でその男を追いかける。
なんとか追いつき、呼び止めることが出来た。
『どこかで会ったっけ?』
「えっ。あぁそうですよね。えっと……」
あの時と自分の服装が違うことに気付いたアーシアは、たまたま持っていたシスター服を慌てて身にまとった。
すると男もアーシアだということがわかったようだ。
『あぁ!あの時の女の子かぁ。ふっひっひ!ボクに何かようかなぁ』

「良かったぁ~。気付いてもらえて嬉しいです」
「と、とくに用事があったわけじゃないんですけど……」
「お話がしてみたくて……」
終わてて追いかけてきただけなので会話の内容が浮かばない。
どぎまぎするアーシアに、男は笑顔でフォローしてみせた。
『ふっひっひ。もう一度ボクに会ってみたくなって、たまたま見かけたところを追いかけてきたんでしょ?』
「―――!!」
「は、はい。その、おっしゃるとおりです」
アーシアの状況をすぐに察する男の洞察力に、またしても心を打たれる。
自身ではぎこちなく取り留めのない内容しか話すことができなかったが、その中でも自分が思うことを的確にすくい上げて会話を繋げてくれる男に、アーシアの気持ちは一気に傾いていた。
そして、ある程度会話に区切りがついたとき、男は確信を突く言葉を放った。
『アーシアちゃん、キミは恋心を抱いていた男に対して本当に尽くしていいのか迷ってる―――』
「なっ―――!?」
一瞬言葉を詰まらせるアーシア。男はさらに続ける。
『違うかなぁ?ふっひっひ、正解だよねぇ』
わかっていると言わんばかりに自信満々の男に、
アーシアは目線をそらして小さく、しかし様々な感情をまとったため息を吐いた。
「……はぁ」

(この人……やっぱりすごい。私の気持ちを全部……)
心の中で複雑に結びついていた茨が、解けたように感じた。
そして様々な感情が不思議なほど整理がついてしまった彼女は、今の自分の気持ちをしっかりと理解することができた。

「全て……お見通しなんですね」
完全に見透かされていたアーシアは、自分を本当に理解してくれる男はこの人しかいないと確信する。
一誠ではなくこの人こそが自分の尽くすべき男なんだという気持ちに支配されていた。
アーシアは恐る恐る口を開く。
それでもきっと今から言うことも既に〔理解〕されているんだろうと思い、それほどの不安は感じなかった。

「その、あの……」
「もしよろしければ……」
『ボクの下僕になりたいんでしょ?』
「―――!」
やはり思っていることを先に言われ、これが決定的なものとなってアーシアの心は完全に目の前の男へ移ってしまうのだった。
もはや二人の間に多くの言葉はいらなかった。
アーシアは満面の笑みを浮かべて男を見上げると、ただ一言―――

「これから宜しくお願いします、御主人様

そう言って男とどこかへと去って行くのだった。